出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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蛋白漏出性胃腸症
たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう

蛋白漏出性胃腸症とは?

どんな病気か

 血漿蛋白、とくにアルブミンが消化管内に異常にもれ出ることによって起こる低蛋白血症を主徴とする症候群です。この病気は以前、本態性低蛋白血症と呼ばれていましたが、メネトリエ病の症例に放射性ヨードで標識したアルブミンを静注後、採取した胃液中に血漿アルブミンが異常漏出していたことが報告され、本症の概念は確立しました。

 代表的な病気として、胃のメネトリエ病と腸リンパ管拡張症があげられますが、この2つの病気を原発性、他の器質的病気に合併するものを続発性と分けることもあります。

原因は何か

 蛋白漏出の機序として、下記の3つがあげられますが、これらが単独あるいは複合して蛋白漏出を起こすと考えられています。

①リンパ系の異常

 腸壁から静脈に至るリンパ管の形成不全や閉塞による腸リンパ管拡張症、収縮性心外膜炎、悪性リンパ腫腸結核クローン病、非特異性多発性小腸潰瘍症などで腸リンパ系の異常がみられ、それによって蛋白漏出が起こります。

②毛細血管透過性の亢進

 アレルギー性胃腸症、アミロイドーシスなどでは消化管の血管透過性が亢進し、蛋白漏出を生じます。

③消化管粘膜上皮の異常

 潰瘍性大腸炎クローン病メネトリエ病、消化管の潰瘍性病変や悪性腫瘍などでは、この機序による蛋白漏出を生じます。

症状の現れ方

 浮腫(むくみ)が主な症状で、顔面や下肢などの限局性のものから、時には胸水や腹水を伴う高度なものもみられます。リンパ系の異常に基づく症例では、乳び性(白濁したリンパ液のこと)の胸水・腹水がみられます。

 そのほか、下痢、悪心・嘔吐、腹部膨満感、腹痛などの消化器症状や、脂肪便(泥状便で酸性臭がある)、発育障害を伴うことがあります。

検査と診断

 一般血液検査では、低蛋白血症、低コレステロール血症、低カルシウム血症、鉄欠乏性貧血がみられます。消化管への蛋白漏出を証明する検査として、α1-アンチトリプシンクリアランス試験やシンチグラフィが行われます。さらに原因となる病気の診断には、消化管造影X線検査、内視鏡検査、生検による組織検査、リンパ管造影などが必要です。

治療の方法

 腸リンパ管拡張症では、低脂肪・高蛋白食の摂取、中鎖脂肪酸を含む半消化態栄養剤の投与を行います。薬物療法としては、通常は利尿薬やアルブミン製剤を投与しますが、副腎皮質ホルモン薬の投与が有効な場合もあります。また、メネトリエ病では、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの薬物療法が行われます。

 そのほか、続発性の症例では、原因となる病気に対する治療を十分に行うことが大切です。

 保存的治療で効果があまりなく、病変が限局している場合には、外科的治療の適応となります。

病気に気づいたらどうする

 原因不明の浮腫に気づいたら、総合病院の内科を受診すべきです。リンパ系の異常に基づくものと診断されれば、低脂肪・高蛋白食の食事療法を心がけることが大切です。

(執筆者:公立学校共済組合九州中央病院病院長 飯田 三雄)

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コラム内視鏡的粘膜切除術(EMR)および内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

国立国際医療研究センター消化器科内視鏡科長 後藤田卓志

 1980年代に登場した内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、診断のための切除から根治のための切除へと、内視鏡治療の分野に大きな変革をもたらしました(図24図24 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR))。より安全で簡便なさまざまなEMR手技が次々と報告されるようになり、当初は1cm以下の小さな病変のみが対象でしたが、徐々に大きな病変に対しても施行されるようになってきました。しかし、技術的な限界から1cmを超える病変を確実に一括切除することは困難で、分割切除が許容されていました。ところが、分割切除後に約12%の局所再発があることがわかってきました。

図24 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)

 1998年に、IT(絶縁チップ)ナイフを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が臨床応用され、一括切除率が飛躍的に向上したことから、早期胃がんの約半分は内視鏡での切除(=根治)が可能となりました。2006年4月の診療報酬改定によって、「胃の早期悪性腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術」が保険適応になり、ESDが社会的にも認知されるようになりました。

 内視鏡的切除は、リンパ節郭清が不可能であるため、根治できる病変はリンパ節転移がないことが外科手術と大きく異なるところです。しかし、残念ながら、術前に早期胃がんのリンパ節転移の有無を正確に評価することはできません。

 臨床においては、切除後に深達度(がんの深さ)や脈管侵襲(リンパ管や静脈へのがんの浸潤)の有無など、リンパ節転移に関係している因子を病理組織学的に評価することによって、「リンパ節転移の可能性が極めて低いがん」=「リンパ節郭清の必要がない局所切除で根治可能ながん」であることを確認しなくてはなりません。根治という観点から、"切除ができる"と"根治できる"を明確に理解したうえで治療方法を決定する必要があります。

 ESDを行うにあたって、術中の偶発症(穿孔・出血)の頻度はEMRと比較すると高率で、知識と対策も含めた内視鏡技術の習得が不可欠となります。ESDは技術的な煩雑さから完成された手技とはいいがたく、今後もより安全・簡便な手技への進化が望まれる技術です。

 内視鏡的切除といえども、最終目標は根治であることを念頭に置いた術前検査と治療方針の決定、切除後の適切な判断が必要となります。医療者も医療を受ける側も簡単・安易に考えるべきではないことを理解するべきです。したがって、「胃癌治療ガイドライン」に基づいた胃がんの進行度による治療適応の説明がなされ、同意を得る手続き(インフォームド・コンセント)の過程のなかで治療方針が選択されていくべきものです。

 胃がんと告知された場合、以下の項目をしっかり確認しておく必要があります。

□術前の診断が早期胃がん、特に粘膜に限局したがんである可能性が高いか?

□生検による組織型が分化型がんであるか?

□病変の大きさは?

□病変の部位は?

□治療方法はEMRなのか? ESDなのか? 腹腔鏡手術なのか? 開腹手術なのか?

□内視鏡的切除であれば一括切除できるのか?

□治療のリスクは?(偶発症とその対策)

□内視鏡的切除後の病理組織結果は?(深達度、組織型、大きさ、脈管侵襲の有無、潰瘍の有無、切除断端など)

□最終的根治度は?(治癒切除、非治癒切除、判定不能)

□その後の治療方針は?(外科手術が必要なのか)

コラム内視鏡的消化管出血止血法

佐賀大学医学部内科講師 坂田祐之

 内視鏡検査は、以前は診断が主目的でしたが、内視鏡手技の進歩や周辺機器の開発とともに内視鏡でさまざまな治療が可能となり、その意義がますます重要になってきています。消化管出血を起こす疾患の多くは、緊急内視鏡検査の適応となり内視鏡的に治療されています。

 代表的な内視鏡的止血法には①薬剤局注法、②熱凝固法、③機械的止血法、④薬剤散布法があります。どの方法を用いるかは、出血の原因や出血の程度によって異なってきますが、最も頻度が高い胃・十二指腸潰瘍出血では、どの止血法でも止血率にはほとんど差がなく95%以上です。

①薬剤局注法

 薬剤局注法は、内視鏡から局注針を用いて出血部位に薬剤を注入する方法で、局注に用いる薬剤としては、純エタノールと高張ナトリウムエピネフリンがあります。純エタノールは、エタノールの脱水作用により血管収縮、凝固を図る方法です。高張ナトリウムエピネフリンはエピネフリンの血管収縮作用、高張食塩水によるエピネフリン薬理作用の延長と組織膨化、血管内の血栓形成により止血する方法です。薬剤局注法は、主に胃・十二指腸潰瘍の露出血管からの出血に対して使用します。その他の薬剤としては、食道・胃静脈瘤からの出血に用いられる5%オレイン酸モノエタノールアミンや1%エトキシスクレロールがあります。

②熱凝固法

 熱凝固法には、アルゴンプラズマ凝固とソフト凝固があります。アルゴンプラズマ凝固はアルゴンガスをプラズマ化し、そこへ高周波電流を誘導することで組織の焼灼凝固を行う方法で、広く浅い出血に対して短時間で治療できます。ソフト凝固は内視鏡的粘膜下層剥離術時の出血に主に使用され、電圧を200V以下に制御し、スパークを発生させず組織の炭化を防ぎ組織をゆっくり脱水凝固するもので、潰瘍出血にも応用されています。

③機械的止血法

 クリップ法は、血管を直接把持するため、組織損傷が最も少なく安全確実な方法です。クリップは、ポリープ切除などの内視鏡治療後の出血防止としても使用されます。そのほかの機械的止血としては、食道静脈瘤の出血にO-リング(ゴムバンド)を用いて静脈瘤を結紮し、血流を遮断する方法があります。

④薬剤散布法

 0・1%ボスミン液、トロンビン、アルギン酸ナトリウムなどの止血薬を出血部に散布する方法で、ほかの止血法の併用療法として用いられています。

蛋白漏出性胃腸症に関する医師Q&A